分数オーギュメント〜無限上昇分数aug
分数オーギュメント
分数コードで、上方のコードがオーギュメントコードとなっているものを見かけます。近年、日本のネット上でもしばしば取り上げられるこのコード。分かっている様でよく分かっていない部分もあるのではないでしょうか?
今回は、このコードの特徴や面白い用例をご紹介致します。
さて、分数オーギュメントコードと巷で呼ばれているものは、
Baug/Db (Baug/Db7)
のような表記のコードで、
基本的には
□7コードで、特に□7(9,#11)コードの際に、
m7
9th
#11th
この3つの音で構成される、三和音(トライアド)が、コードの上の方に鳴らされている状態を指していることが多いです。
※コードの構成音やテンションをいくつか選択して、上方に三和音を構成した状態を、アッパーストラクチャートライアドと呼びます。(U.S.T.と略します。)
例:F/G, D/Cmaj7, C/Dm7, C#/G7, Db/C
【無限上昇分数aug】
早速ではありますが、こちらの例をご覧ください。
例:Faug/G7 → F#aug/C7(Bbaug/C7) → Gaug/F7(Ebaug/F7)
この様に、強進行する□7コードが続いている際
m7
9th
#11th
この3つの音で構成される、三和音。
この三和音の部分がオーギュメントコードとなっています。
このオーギュメントコードを、
アッパーストラクチャートライアド(U.S.T.)として上方に鳴らしたサウンドが
無限に上昇
していきます。
これはとても面白い響きですし、分数オーギュメントの練習をしたい時にもオススメです。
用例とパターン
例
Faug/G7
→
F#aug/C7(Bbaug/C7)
→
Gaug/F7(Ebaug/F7)
→
Abaug/Bb7
→
Aaug/Eb7(Dbaug/Eb7)
→
Bbaug/Ab7(Gbaug/Ab7)
→
Baug/Db7
→
Caug/Gb7(Eaug/Gb7)
or
Caug/F#7(Eaug/F#7)
→
Dbaug/B7(Aaug/B7)
→
Daug/E7
→
D#aug/A7(Gaug/A7)
→
Caug/D7
→
C#aug/G7
この様に、augトライアドが半音で上昇していきます。
分数オーギュメントの正体は裏コード
分数オーギュメントと言えば、ポピュラー音楽で使われる用例では、
ほぼ90%は
裏コード
□7(9,#11)をU.S.T.化したボイシングを指します。
その証拠に、全てがルートの半音下のトニックに解決します。
例:
E7(オモテ)→Am
Bb7(ウラ)→Am
これのBb7のテンションが9thと#11thなので、
Abaug/Bb7→Am
となります。
ちなみに、
Abaug/Bb7
は
Abaug/Bb7
Caug/Bb7
Eaug/Bb7
と表しても良いです。
ただ、[m7,9,#11]をU.S.T.ボイシングしたものですので、Abaugがサウンドのイメージに最も近いです。
イキスギコード、田中コード、ブラックアダーコード?
これはSNSなどでも何度も発信しているので恐縮ですが、2010年代頃から、ネット上などで「イキスギコード、田中コード、ブラックアダーコード」などと呼ばれているコードです。
これが「新種のコード」などと言われているのですが、これは誤解です。
コード進行の本を購入すると、序盤〜中盤辺りによく書いてあるコードで、どうしてそのような誤解となったのか、とても不思議なのですが…。
この様な動きは、100年以上前から普通に使われていますので、新種のコードではありません。
完全に間違った情報がネットによく載っていますので、混乱の無い様にできれば少しずつ情報が訂正されていけばと思っています。
さて、今回ご紹介した
【無限上昇分数aug】
は裏コードの用例としてではなく、表の普通のドミナントです。
ドミナントの使いこなし、使い分けに慣れて頂こうと、上昇する練習方法を考えました。
とにかく、□7コードの[m7, 9th, #11th]を意識して弾こう!という目的です。
何故わざわざこんな部分を意識するのでしょうか。
オーギュメントの内声のボイスリーディング
ここからが重要な部分となります。
コード進行、つまりハーモニーは、コードトーン同士の前後の流れや繋がりが大切なのですが、
分数のオーギュメントの内声は、スムーズに進む先があります。
表ドミナントの場合は、
m7は、半音下に解決 (進む先がマイナーコードの場合は、全音下に解決)
9thは、同音で留まる or 全音下に解決
#11thは、半音上に解決
です。
裏ドミナントの場合は、
※半音下のルートのコードに解決するものですね。
m7は、同音で留まる(進む先がマイナーコードの場合は、半音下に解決 or ブルースのトニックなら全音下に解決)
9thは、半音上に解決(進む先がマイナーコードの場合は、同音で留まる)
#11thは、同音で留まる
です。
ボイスリーディングが何より重要
ハーモニーとしてスムーズに音を導いていく場合には、この部分に注意すると、自然に分数のオーギュメントを使うことができます。
(無限に上昇する場合は、ただ上昇するだけなのでこの流れではなく、意図的に半音上昇し行っても面白いです。)
ボイスリーディングとは、音の流れのことですが、これに全て従わなくてはならないというような決まりはありません。
スムーズに繋がる音はどういう流れなのか?を理解した上で、意図的に違った動きをするのはスマートなやり方です。
逆に、よく分からないで鳴らしていて「上手くいったりいかなかったり…運次第」という状態は、意図した表現ができないので、分かっていた方がコントロールできるということになります。
今回
「上手く使えない!」「気持ち悪いだけになっちゃう」
というお声を頂いたので、解決策をまとめて、発信させて頂きました。
分数オーギュメントのボイシング
さて、このブログを読んで下さった方に、追加情報です。
ボイシングの基本の形に、【ガイドトーンボイシング】というのがあります。
Aタイプ
R 3 7 9(R) 5(13)
Bタイプ
R 7 3 5(13) 9(R)
この様に、下3つのガイドトーンの上にテンションを置くボイシングです。
これを元にして、分数オーギュメントを、ガイドトーンボイシングに近い形で弾くと、
※分数オーギュメント:ここでは、□7コードで、上にU.S.T. [m7, 9th, #11th]のオーギュメントコードを重ねたもの。とする。
Aタイプ
R M3 m7 9th #11th
[覚え方] 右手親指がRootの全音下からのオーギュメント
例 G7:ソ シ | ファ ラ ド #
Bタイプ
R m7 #11th m7 9th
※3度を入れるなら
R m7 M3 #11th m7 9th
[覚え方] 右手親指がP5の半音下からのオーギュメント
例 C7:ド シb | ファ# シb レ
この様になります。
ガイドトーンボイシングと組み合わせて使う際に便利ですので、是非お試し下さいませ。
分数オーギュメントの異名同音
その他、分数オーギュメント全般の注意点としては、
例えば
F#aug/C7
は
Gbaug/C7
とは表しません。
何故なら、C7(9,#11)のコードトーンは、ド,ミ,ソ,シbで、テンションはレ,ファ#で、ファ#はソbではないからです。
厳密には音が違うのですね。(平均律だと同じになりますが…)
この辺りをしっかりと把握した上で、お使い頂くと、音の意図を明確に使い分けることができます。
補足
私は「分数オーギュメント」という名称は、個人的には、あまり好ましくないと考えています。
ただ、この件で問い合わせが多かったので、敢えてこの名称で呼ばせて頂きました。
そもそも、オーギュメントという発音も、正式には間違いであって「Augmented」なので「オーグメンテッド」が正しい発音です。
「ディミニッシュ」も「ディミニッシュド」ですし、
「フラットファイブ」も「フラットフィフス」が良いです。
DMでご連絡を頂いた方もいらっしゃったので、この場で補足させて頂きました。
また、こうした読み方や発音について、不快に感じた方がいらっしゃいましたら、大変申し訳ございません。この場を借りてお詫び申し上げます。
こうした、日本でしか伝わらない表現や、和製英語の音楽用語は色々とあります。
私も日本語で伝わりやすいのでよく使ってしまうのですが、海外の仕事をしていると伝わらない言葉があったりします。
以下に思い当たったものをメモしましたので、参考になさってみて下さい。
実は伝わらないかもしれない音楽用語
オーギュメント → オーグメント(オーグメンテッド )
コンディミ/コンビネーションオブディミニッシュ(和製英語)→ ハーフホールディミニッシュ(ディミニッシュド)
DTM(和製英語)→ Computer Music / Bedroom Production(狭義)
パラデータ(和製英語)→ マルチトラック、インディヴィジュアルトラック、ステム(いくつかのステレオにまとめたマルチトラック)
ツールス(和製英語)→ボックス ※一般にPro Toolsのこと
TD(和製英語)→ ミックスダウン
シールド(和製英語)→ケーブル
ストローク/カッティング(和製英語)→ストラミング
チョーキング(和製英語)→ベンディング
グリスダウン(和製英語)→スライドダウン(グリスアップは英語でもあります。)
リムショット(和製英語)→オープン・リムショット or サイドスティック
ライブ(和製英語)→ギグ
ライブハウス(和製英語)→クラブ、ホール(小さいお店は単にバー)
エイトビート → エイトノーツフィール
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